分かり始めた病気の仕組み〜遺伝子のメチル化異常〜
キーワード
がん アルツハイマー 不妊症 自閉症
これまで、遺伝子が傷つくことで様々な病気が起こると考えられてきました。
しかし、多くは「遺伝子をどうやって働かせるか」のスイッチのような機能が
「後天的」(つまり生まれてからの生活の中で)にうまく機能しなくなること(遺伝子のメチル化異常)が
原因であることが分かってきており、世界中で研究がすすんでいます。
遺伝子のメチル化異常とは
メチル化とは、「遺伝子をどうやって働かせるか」遺伝子を制御する部分にメチル基がつくこと
その「メチル化」に異常がおきること。
自閉症を例に
ビスフェノールA、フタル酸エステル類(※)、農薬、たばこ、がメチル化に異常をもたらしているかもしれない
(※)プラスチック、香料などに使われる
WHOの報告では、幼児から青年期の問題行動など、精神発達障害はおよそ20%の割合でみられるとされる。
日本の研究でもほぼそのような結果となった(※)先に説明したメチル化異常がその原因であることも分かってきています。
そしてその原因の毒物として、農薬(有機リン系など)、化学物質(ビスフェノールA(以下BPA)やフタル酸エステル類)、タバコの研究が進められています。
自閉症児の父親の精子は特定の遺伝子のメチル化異常を起こしている
何かの毒物によって精子がメチル化異常をおこし、自閉症が起こっているのではないかと推測できます。
メチル化異常は、生まれてからの生活習慣の中で起こることですが、3世代先まで遺伝すると言われています。
他にもPCB(ポリ塩化ビニル)は精子の異常に関係しているというのがほぼ立証されています。(※)
(※)Factors associated with aberrant imprint methylation and oligozoospermia
乏精子症精子における DNA メチル化異常をもたらす要因について Scientific Reports. 2017
妊婦の臍帯血からほぼ100%化学物質(BPAなど)の成分が検出されている
胎児期にBPAなどに曝露(さらされた)ことによる影響は、5歳ころの問題行動との関連が見られ、行動発達への影響が懸念されています。
BPA曝露、フタル酸曝露共に神経系への神経発達への影響はすでに疫学研究や実験でも報告されていますが、これにもBPA,フタル酸曝露によるメチル化異常が関与する可能性が考えられます。
農薬、化学物質、たばこに注意しましょう
添加物や遺伝子組換えに気を付けることも大事な事です。
ですが、家族の健康を考えるなら、農薬、化学物質、たばこは非常に気を付けなければいけないものです。
Sperm DNA methylation epimutation biomarker for paternal offspring autism susceptibility
精子DNAのメチル化パターンが子供の自閉症になりやすさの指標になる
Clinical Epigenetics 2021 13;6 ワシントン州立大学
自閉症スペクトラムは複雑な神経の病気で、コミュニケーション、社会的行動、ステレオタイプな動きが特徴です。
有病率は1975年に5000人に1人、2009年には110人に1人となっている。アメリカCDCの報告では、2012年に88人に1人、2014年に68人に1人となっている。診断の進歩などがこの増加の原因の一つではあるが、最近の20年の増加は環境要因などに原因がある。双子の研究などからもこれらのことは認められる。
多くの遺伝子の関与が認められるが、ほんのわずかの部分にすぎない。最近の研究で、精子の遺伝的変化の関与が認められた。多くの毒物の関与が示唆されているが、更なる研究が必要だ。
この研究では、精子のDNAのメチル化パターンがバイオマーカー(指標)になるか調べた。
方法
自閉症の子の父親の13人、自閉症でない子の父親の13人の精子DNAのメチル化されている部分(DMR)の違いを見た。DMRの染色体上の位置、CpG濃度、DMRの長さなどを特定した。それら違いのあるDMRは805か所、DMRに関係している遺伝子は、以前から自閉症に関連していることが知られている遺伝子や、他の神経に関係している遺伝子だった。
この自閉症に関連するDMRを用いて、自閉症を予測すると90%の精度だった。
解説
DNAメチル化:遺伝子DNAにメチル基(CH3-)がつく事。
それによって、その遺伝子が働いたり、眠ったり、遺伝子発現を調整している。細胞が持っているDNAはどの細胞も同じDNAを持っているが、発現(働く)している遺伝子が異なっている(細胞分化)ので、異なった働きをしている。
精子DNAのメチル化のパターンが自閉症児の父とそうでない父で異なっている事、そのメチル化を受けている遺伝子が自閉症との関連が疑われている神経で働いている遺伝子だということがわかりました。
また、その自閉症児に特異的な父親の精子DMRから、逆に子供が自閉症であることが90%の精度で予測できる、という論文です。
(伊澤)
http://1.nagoyaseikatsuclub.com/?eid=349
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